篠田真由美お仕事日誌

2017.11.26

 秋の不眠症がだんだん募ってきて、今日は頭がぼけている。皆川博子先生に献本をいただいたお礼状を書かねばならないのに、それもまだ放置したままだ。去年から大きく削減した、年賀状の枚数も計算せねばならない。出す日によって値段が10円変わるとか、そんなしちめんどうくさいことをすると、ますますアナログな年賀状の利用者が減るんじゃないの。郵便制度は維持されねばならないから、値上げはやむを得ないとは思うものの。

 

 昨日の成蹊大学図書館の展示、小栗ファンにとってはなかなか見応えのあるものだったが、成蹊大学、なぜか構内はおろか図書館の前にも、展示のポスターとかミュージアムトークの案内とか、出していなかった。友人のマイミクK教授なんか、毎週隣の校舎に講義に行ってるのに知らなかった、よかった間に合ったといってくれて、ロンドンのSちゃん、くれぐれも有り難うね。

 2016年夏の古書入札会に出品された草稿や関係資料を、成蹊が落札してくれたのだそうだ。散逸することにならなくて幸い、というわけで、小栗の末息子の奥さん初め、ご存命の縁者ご婦人たちが複数、ミュージアムトークにご来場。文学部教授浜田雄介先生が、ガラスケース内に展示されたものを丁寧に説明してくださる。篠田にとってはなんといっても『黒死館』なので、書き損じ原稿や創作メモをじと見。デビュー作「完全犯罪」は、長らく行方不明だった冒頭1枚がご遺族寄贈資料から発見されて、110枚が完全に揃った。この原稿、複製して読めるようにしてくれないかなあ。訂正の後は少しの完成原稿、投稿したものかもしれない。

 それとは正反対に「よ、読めねえっ」というしかない「白蟻」の原稿。現物を前にしても、字が細かすぎてほとんど判読できないようなしろもので、なんだってこんなに詰めて書いたのか。手元に紙がないまま、あふれ出る文を詰め込んだのだろうか。読みたいけど読めない。でもそれはご安心。会場で販売されていた「『新青年』趣味」18号 小栗虫太郎特集に、読めるだけの文字を書き起こしたものが掲載されています。他にも興味深い展示物多々あり。12/1まで。興味のある人は吉祥寺に走れ!

 

 会場では久しぶりに元東京創元社編集者の戸川さんとお会いし、注釈版『黒死館殺人事件』を上梓した研究家素天堂さんご夫妻とも再会。なお上記「『新青年』趣味」18号には素天堂さんの「オフェリヤ捜し」という論文が掲載されていて、小栗の法水物『オフェリヤ殺し』の下敷きとなったとおぼしい明治末から大正初期の演劇界の状況を教えてくれる。陶孔雀、というすばらしい芸名の女優が登場しているのが忘れがたくて、その名を自作でちょっと使って見たりしたのだが、本当に孔雀という女優さんが当時いたとは知りませんでした。いやもう、知りませんことが多すぎるんですけど。

2017.11.25

今日はジムの後で、成蹊大学図書館でやっている「小栗虫太郎」展に行った。こんなものをやっているとは全然知らなくて、情報はロンドン在住の友人からもらった。やれやれ。そろそろツイッターくらいやってないと、知るべきことも知らぬまま過ぎてしまうかもしれん。どうせならギャラリートークのある日に行こうというので、この土曜日になったのだが、あちらでは元創元編集者の戸川さんや、黒死館研究者の素天堂さんご夫妻と久しぶりにお目もじ。しかし今日は遅くなったので、詳しいご報告は明日とさせて頂きます。

2017.11.24

 今日も厚着して散歩に出たら、しっかり汗を掻いてしまう。そもそも着すぎなんかしら。

 

 講談社のPR雑誌「本」で演出家の鴻上尚史が「どうしてもこの人を書きたかった」という文章で、現代新書の新刊『不死身の特攻兵』について書いていて、これは面白そうだと思い駅ビルの本屋に行くと無くて、14日発売だからもしや売り切れたのかしらんと思い、店員さんに聞いてみたら「うちの店には入荷していませんでした」。いやしかし、「本」のトップページに著者の文章だよ。表紙にも書かれてるよ。なんだかなあ。よほど部数が少ないのか。最近新刊棚を見ても、教養新書なんか新刊の一部しか入荷していない、という印象がままあって、先日感想を書いた『暮らしの中のニセ科学』も、まだ読んでないけど『すごい古書店 変な図書館』も、いずれもここの本屋には並んでいなかった。教養新書も出すぎて、こういうことになっているのかなあ。

 

 やっとヴイクトリアのためのメモ取りを始めた。なにせ登場人物が多い、固有名詞が多い、裏設定が多い。自分でも全部は覚えていない。既刊を読み直しながら、改めて名前のリストと年齢や年表を書き出す。1巻目でミスを発見。ちょいとめげる。平行して、ラスキンの妻の評伝『エフィー・グレイ』を読み進める。ヴィクトリア朝の既婚婦人が不健康で病的になりがちなのは、家庭環境と夫からの抑圧のせいなのだろうな、と改めて痛感。ジョン・ラスキンは幼女にのみ欲情する(実際に襲ったりはしていないようだが、少女時代に見初めた女性が、19歳になっていさざ結婚したとなると、性欲を覚えないで指一本触れないまま6年、というのは、屈折した変態だと思う)男だったらしい。こういうのを読んでいると、「怒りの女同盟」な気分になります。

2017.11.23

 朝は冷たい雨が降っていたが、昼前に曇りに変わり、数分後に外を見たら空が青くて陽が射していた。外に出てみたら気温が高く、歩いていたら汗ばんでしまった。しかし今夜から寒気が南下してくるという。あわただしい天気の変動だが、高血圧持ちにはやはり気温の低下がこたえる。夏からしばらくはわりと低めになっていたのだが、ここに来て140超す日が多くなってきてしまった。

 

 雑誌ダ・ヴィンチの「マンガのなかの大人の男」という特集で、好みっぽい大学教授の絵が目にとまったので、『長閑の庭』アキヤマ香 講談社 というマンガを1巻だけ買ってみる。そんなに悪くはないけど、5巻まで出ている続きを即買いというほどではなかった。コンプレックス持ちの地味な女子大学院生が謹厳な独文教授に片思いするお話。回りに彼女の劣等感を刺激するかわいい同級生や、なにかと絡んでくる感じの悪い助手青年、教授の元妻などを配して、ああだこうだと話は続く感じだが、まあどうぞお好きになさってください、と。

 もう1作品、西ケイ子『カツカレーの日』 小学館は2冊で完結。恋愛よりも堅実な結婚をしたいと願って、演劇青年の同棲相手を切り捨て、婚活を始めたキャリア女子の試行錯誤に、カフェのノートを通じて知り合った土木系のおっさんが絡むお話。よくできていてきれにい収まって、テレビドラマを見たような感じ。ラストは泣かせが入ってしっかり泣くが、「こんなふうに現実は上手くいきゃしねーよな」的な気分がすぐ後からやってきてしまうのは如何ともしがたい。

2017.11.22

 寒いのでユニクロのヒートテックに暖パンと、すでに真冬並みの装備に突入している。

 昨日はヴェネツィアのスーパーで買ってきた「トスカナ風のスープ」というのを開けた。といっても缶詰でも、レトルトでもなくて、細かな豆や麦が混ざって入っていて、辞書を片手に作り方を読むと、「小さな赤タマネギをスライスして、オイル大さじ2杯でいため、スープ一人前に対して500ミリを入れて45分煮る」としか書かれてない。すごく適当な感じ。袋には250グラムで3人前とあったので、冷蔵庫の残り物野菜、ニンニク、たまねぎ、人参、冷凍トマトなどと、出汁を取るのは面倒なので、豚肩ロース200グラムに塩してしばらく置いたものを刻み(日本の普通に売られているベーコンは、工業製品ぽくて好きじゃないから、パンチェッタのつもりで塩豚肉を使うのです)、オリーブオイルでいためて、水を五百ミリ、袋の豆類を80グラム投下して柔らかくなるまで煮てから、さいの目切りのジャガイモを足した。味付けは塩と胡椒と、少し豆臭かったのでタイムを追加。一度火を止めておいていたら、豆からとろみが出て、なかなか美味しいスープになった。中世ヨーロッパの農民は、豆入りスープにライ麦パンが普通の食事で、肉はめったに食べられませんでした。ちなみにトマトはコロンブス以後なので、中世にはありません。

 

 ヴェネツィアでは、ミニコンサートが手軽に聞ける。昔行った時は会場の教会がえらく寒くて大変だったが、今回のサン・ヴィダル教会はとてもあったかに暖房されていた。演目はおなじみのヴィヴァルディ「四季」の他に、サラサーテの「ジンガレスカ」というのがラストにかっこいいお兄さんのヴァイオリン独奏であって、これがなかなかすてきであった。ちょっと「ツィゴイネルワイゼン」みたいな曲だなと思って、ネットで調べてみたらZingarescaとはイタリア語でジプシーの曲という意味だそうだ。検索したらYOUTUBEで演奏が出てきて、そうそうこのメロディとうなずきながら聞くことができた。

 あれ、つまりみたいな曲じゃなくて、ドイツ語でツィゴイネルワイゼン、イタリア語でジンガレスカ、同じ曲ってことか。ややこしいのう。にしても便利な世の中や。

2017.11.21

 さすがに疲労感がずっしり。でもその割には動けているので、この後にもっとばったりになったらどうしよう、などと少し心配になる。イタリア旅行のことを書こうとすると、スリのことを思い出して不愉快になってしまうので、旅の話はしばらく勘弁して欲しい。講談社から「レディ・ヴィクトリア」続巻のOKが出たので、イギリスのことを考えて気分転換を図ることにする。

 

 旅行中に読んでいて読み上げた本が、やはり19世紀のインドを舞台にした話で、これがとても面白かった。

『紳士と猟犬』 M.J.カーター ハヤカワ文庫 東インド会社支配下のカルカッタ、主人公はジェントリー階級の末っ子で21歳のエイヴリー、軍の下士官だが憧れを覚えていたインドの現実にうんざりして、酒と博打に溺れるダルな毎日を送っている。その彼に突然下された秘密任務、イギリス人のろくにいない地方を抜けての人捜しの旅に、組まされるのは軍を辞めてカルカッタの陋屋に沈潜する謎めいた男、ブレイク。

 歴史物だから読みにくいかなと思ったら、全然さにあらず。視点人物エイヴリーにするっと感情移入できて、当時のインドに向けるイギリス人の心情に反発したりため息をついたりしながら、どんどん物語の中に連れて行かれる。なぜか自分の脳内では、エイヴリーが、若き日のジョニー・デップをもっと若返らせた美青年になり、ブレイクがロバート・ダウニー・ジュニアをもう少し老けさせた感じになってしまった。反発し合うふたりの男が次第に心を通じ合わせていくバディものの王道に、歴史考証がほどよく絡んでページをめくる手が止まらない。

 舞台をロンドンに移しての続巻も出ているそうなので、翻訳刊行待望。

 

 もうひとつ、旅行前から読みかけているのが『エフィー・グレイ ラスキン、ミレイと生きた情熱の日々』という小説で、ところがロンドンの友人が、これの映画を見たとメールをくれた。ラファエル前派は日本でも人気があるから、映画が公開されても不思議じゃないなと思います。

2017.11.20

 定刻通り帰宅。

 天候に恵まれた素晴らしい旅行だったが、ヴェネツィア最終日にツレがスリに遭って暗転。そのことは思い出したくないくらいだが、同胞に注意を喚起する必要はあると思う。

 サンマルコ広場からサンザッカリアは、この街でも一番人出が多い場所だが、中でも混み合うのが右手に海を、左手に運河越しに「ため息の橋」を見る橋の上。ここで「カメラのシャッターを押して」と頼まれたら持ち物をしっかり抱えて足早に立ち去るべし。両手と目が上に行って身体への注意がお留守になる、スリとしては上手い手だが、人の好意につけ込むやり口は邪悪で許しがたい。運河に落ちろ、病魔に憑かれろ、地獄へ行け、と呪詛しておくぞ。

 「地球の歩き方」のトラブル欄にも記載されていなかったので、早急に投書するつもり。

2017.11.19

恐ろしい事が起きた。サンマルコ広場近くでスリの被害に遭ったのだ。ツレの財布を丸ごとやられた。人の善意につけ込むやり口は、人間性の愚弄というよりなく、犯人はイタリア人でないとしても、この国に対する好意を丸ごと消滅させる出来事だった。自分は二度とイタリアには来ない。

 

今朝6時過ぎの飛行機でヴェネツィアを発ち、今はローマ空港。待ち時間が7時間以上あるので、鉄道でローマ郊外の日曜市に行く予定を立てていたのだが、何せスリ被害の衝激がまだ立ち直れてないし、身体も疲れてるしというので、気持ち良く身体を伸ばして横になれる椅子を見つけて沈没。

 

かくしてヴェネツィア最終ディナーはスーパーで買ったワイン二本缶ビール一本、その他。イタリア最終ランチは売店で買った3,5ユーロのアランチーニ(ライスコロッケ)になりました。いまは風呂にドップリ浸かりたいですね〜  これか老いるということか。

2017.11.18

目が覚めて、Wi-Fiが繋がったので、長々と日記を書いたのに、投稿しようとしたら、切れていて消えてしまった。クソウ!

悔しいからもうやめておきます。帰ったらレティヴィクトリアの第4巻に取り掛かりますよ、ということで。それから徳間が許してくれたら、ほっぽらかしている黎明の書をやります。

2017.11.17

 まだいます、ヴェネツィア。歩き過ぎで足の裏がまめ。ベッドでストレッチしたら腿がつった。今日は全然観光地ではないサンテラズマという島まで行ってきた。緑の少ないヴェネツィアから来ると、なんとものどかで心なごむ。帰路ムラーノ島で水上バスを乗り継ぐとき、突然ガラスを衝動買い。まあ、今回はほぼ何も買ってないし。お昼はガイド本で見つけたオステリアでパスタと海の幸のフリット。そんなに凄いボリュームでもないと思ったのに、いまだに腹が減らないよ。カフェフローリアンで思い出のチョコラータを飲んだしね。明日はいよいよ最終日、とはいえお家はまだ遠い。

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