篠田真由美お仕事日誌

2017.06.08

 天気予報が当たらない。今日は雨のはずが、雲は多いけどときどき陽も射したりして、ただし風が強い。その風が意外と涼しい。埼玉は午後、大気の状態が不安定。ところにより雷雨も、らしい。正午を回ったら、なんとなく低い雲が増えてきた。こうなると、ここで降らなくてもどこかで降っているはず。先日、うちのあたりでは1滴も降らなかったときに、東京ではすごい大雨だったそうだから。

 今日はツレが夜いないので、適当に自分で引き上げなくてはならない。雨でなければ歩いて帰るんだが、何時頃にしようかと空を見ながら迷うよ。仕事はたらたら。っていうか、版元から全然催促がないので、仕事になるのかどうか確信が持てなくなってきた。初心に返ろう、初心に。

2017.06.07

 いよいよ天気が梅雨めいてきた。風はひんやり、湿度は高め。

 マキャモンの『少年時代』前半を読了。キング『スタンド・バイ・ミー』を彷彿とさせる少年たちの四季、ノスタルジーものだけど、長編2本分のボリュームがある分ディテールも豊富。かつて私は少年であったと、胸を張って語れることのなんというすばらしさか、というような。しかし他にも驚いたことはあって、だがそれについては読了後に語ることにする。『スタンド・バイ・ミー』に加えて、ダン・シモンズの『サマー・オブ・ナイト』も再読しちゃおうかな、という気分になった。
 うーん、でもやっぱりこれって男の子の話なんだよね。自分の心象風景を投影して同じような、子供であった自分のある1年なり、ある夏なりを描けるかっていうと、それは難しい。ま、忘れちゃったよというのもあります。少なくとも自分については、あんまり子供時代を懐かしんだり、神聖化したい欲望がないです。ろくな子供じゃなかったし、ろくな子供時代でもなかったよな、と。

 ロンドン在住の友人から「お勧めのBLを教えて」といわれたんだけど、これって意外に難しい。どういうカップリングがお好きですか、なんていうことだけじゃなくてね。いまやすっかりメジャーになられたよしながふみさんはいいよ、といったのだが「読んだことないです」といわれて、さて、ならばファーストよしながはなにがよかろう。『西洋骨董洋菓子店』は確かに傑作だけど4巻だか5巻だかあったので、できればもう少しコンパクトな作品がいいと思い、それで思いついたのが『ジェラールとジャック』全2巻。ベルばらの時代を革命前から後まで、たったの2冊で駆け抜ける。
 しかし、「お勧めです」とメールを書いた後でささっと読み直してみたら、さすが初期作品、ベッドシーンがかなりハードです。ツボを心得てるからエロいんですわ、なかなかに。小学生のお嬢さんがいるのに、場合によったらやばくね? マンガなら日本語が読めなくてもわかっちゃうしね。というわけで4巻あるけど高校生活集団ドラマものの『フラワーオブライフ』をご紹介したんだけど、『彼は花園に夢を見る』を、ここでもう一冊上げておきましょう。よしながさんの絵はシンプルでお茶漬けのようにさらさらしているのに、洒落た雰囲気もあって好きなんですよね。

2017.06.06

 出かける日が続いたので、ここしばらくは仕事場。といっても雑用があれこれたまり、今日はベランダのオリーブの鉢を植え替える。あまり勢いが良くないので、根が一杯になったかと思い、大きな鉢を用意したのだが、思ったほど根は張っていなかった。かなり乱暴に植え替えたので、ちょっと心配になったがもう遅い。
 今頃はロンドンも藤の盛りだと聞き、そういえば藤って和風のイメージなのに、ヨーロッパの石の建物に合わせても違和感がないなと思う。これが桜とか、ボタンとかだと、異国風ね、ということばが浮かぶけど、藤だともう少しなじむような。例によってロンドンの友人に尋ねると、19世紀の初めにやはり東から持ち込まれて、次第に園芸種として定着したものらしい。
 植物については失敗した思い出があって、昔々『祝福の園の殺人』という話を書いた時、ヒロインの名前をオルテンシアとして、あじさいの名前から取りました、という設定にしたんだけど、時代劇なのでその頃はまだヨーロッパにあじさいはありませんでした、ということが後でわかってあちゃー。誰からも指摘はされなかったので、文庫化したときもそのままにしちゃったんだけど、できればそういうミスは避けたい。
 ヴィクトリア奥様の背景に満開の藤のカーテンは美しかろうと思ったのだが、1885年なら問題なさそうです。そういえばホームズものに「ウィステリア荘」ってのもありましたっけね。あれに花の描写は出てきていないとは思うけど、でも家に絡む蔦性植物はちょっと不気味感が漂いますね。それが全面紫の花房で覆われたら、美しいことは美しいけど、そこに住む女性はやっぱり、なんか、こう・・・

 忘れないうちに読書感想。
『悪霊の島』 スティーブン・キング 文藝春秋 前にも書いたがこれはすごい。やはりすごい。単純なプロットに豊富すぎる精緻なディテール、がキングの特徴だと思う、というのも前に書いたが、「どこかで見たような」感と、「こういうのは初めて」感の絶妙なバランス、というのもキング的要素の大きな部分だと思う。苦境の中で孤独でもある主人公(白人男性、中年)が、未知の土地にやってきて、ある救いを見いだすが、それはやがて暗転する、というプロットも、その暗転のメインであるラスポスの正体も、「どこかで見たような」感なのだが、それは袋で、中に詰まっているものが「こういうのは初めて」。
 そして、もうひとついえるのはこれが芸術家小説であること。右手を失った男が、専門的な美術教育など皆無のまま描き出した絵が素晴らしく、それによって彼は去られた家族を含め、亡くしたものを回復する、というのが前半で、後半は当然のようにそれが暗転していくのだが、読者に彼の描いた絵のすごさが伝わってこないと話にならないでしょう。下手な小説はここで失敗する。ここから先はネタバレになってしまうので書かないが、彼を再生した絵が彼をどこに連れて行くか、実に面白うてやがて悲しき小説です。長いけど読む価値あり。

『義経号、北溟を疾る』 辻真先 徳間文庫 辻先生の新刊。山田風太郎の明治小説にテツ(金属の鉄じゃなく鉄道ね)の血が注入された、痛快冒険小説。主人公はなんと斎藤一だ。北海道開拓使黒田清隆に恨みを持つ元八丁堀同心の屯田兵一味が、明治天皇を乗せたお召し列車を襲撃する。闇を疾走する蒸気機関車。それを守って馬を走らせる、斎藤と清水の次郎長の子分法印大五郎。篠田は頭が樹なつみさんの『一の食卓』になっているもんだから、この小説の彼も全部あのキャラで絵が浮かんでもー大変。でも、そうじゃなくてもすごく面白いです。

2017.06.05

 昨日は友人のファンタジー作家ひかわ玲子さん(たまにはきちんとフルネームで書こうかと思って。新しい訪問者がいらっしゃるかもしれないし)のお誘いで、西荻窪までライブに。実は自分、西荻窪には行こうとつい最近思っていたというのは、メルマガが届く「日本の古本屋」の通信で、古本屋だけど出版もしている盛林堂書店さんが出した本が面白そうだと思ったけど、これアマゾンでも取り扱いが無い。そこのサイトで購入は可能なんだけど、どうせならそこまで行ってみようかなと思ったので、まったくのおついでという感じ。ごめんなさい。
 思ったより気温が高くて、歩く時間も無くなって、上石神井からバスで西荻窪入り。盛林堂は即見つかり、お目当ての本『中央線古本屋合算地図』1300円也も購入できたが、待てよっ、ここ、亡くなられた水玉蛍之丞さんの原画が展示してある。同人本みたいなのも置いてある。というわけで『水玉蛍之丞画業集成 表紙編』を購入。これ、帰ってから中をよく見たら、亡くなる前にSherlockにはまった水玉さんによる、「かわうそのシャーロックのおはなし」「はりねずみのジョンのおはなし」「わるいしろねこのアイリーンのおはなし」が収録されていて、感涙にむせぶ。ちなみに文章はSFファンタジー作家の五代ゆうさん。
 他にも妙に趣味の合う本が多く、値付けは安い。100均コーナーにびっくりぽん。塚本邦雄の『十二神将変』箱入りがあるじゃないですかっ。もちろん私は持ってますよ。1974年に新刊で買いましたともさ。2500円で。それから幾度となく読んでなでさすってきた。それがいくら日焼けして箱も褪色しページが黄ばんでるからって、あなた100円って暴挙では。よっぽど買っちゃおうかと(だって可愛そうだよ〜)思ったけど、それではどこかの誰かの本との出会いを妨げるかと思ってぐっとこらえ、その他美術雑誌銀花と横田順哉の「古書狩り」この2冊も100円、を購入して待ち合わせへ。
 ひかわさんのマイミク、やすこさんとおっしゃる方がアイリッシュの歌を歌われる。アコーディオニストで他の楽器もなさる藤野さんという女性がご一緒。オープニングは、あれ、なんか聞いたことがあると思ったら、エンヤでありました。篠田、アイリッシュ・ミュージックは、ひかわさんが声をかけてくださるので、いくつか聞いてはいたのですが、エンヤはそれ以前からCDを買っておりまして、仕事中もバックに流したり。いや、たいていの場合は、途中から音が耳に入らなくなるんで、申し訳ない聴き方、まあその程度のハンチクな聞き手です。
 風土的なことをいうと、自分の身体に流れているのは赤ワインとオリーブオイルのようで、つまりラテン、地中海地方が一番肌に合う。イギリス、小説のネタにするにはすごく面白いのですが、むしろ自分の中の違和感と緊張感が創作に繋がるのかもしれません。でも今回、ロード・オブ・ザ・リングの1のテーマだったエンヤのMay it be や、ガラドリエルの歌を聴かせてもらって、そうか、「指輪」ってアイリッシュが合うんだなと改めて思いました。映画よりも原作の方に。
 PJの映画の功績は認めるにやぶさかでないけれど、違和感を覚える部分も少なからず、特に監督自身にそれほど愛がなかったような、エルフの描写にはひっかかるところが多い。ロスロリエンが特にあきまへん。音楽はその足らざる部分を補ってくれるように思います。

 この後、アコーディオニストの藤野さんが篠田の読者でいらしたという、自分的には「わおっ」というサプライズなどもありまして、音楽の余韻と共に、ひかわさん、いつものK教授、教授の教え子のNさんと再度盛林堂に。100円の塚本はK教授にお輿入れ。ひかわさんもNさんも妖精文庫お買い上げ。篠田もホームズもののパスティーシュ文庫を購入。ああ、もっと買いたいよう。なぜか物欲に火が付く本屋です。やばいです。お買い物依存症ではないけれど、本は別腹です。

 今日は明星大学にナポレオン「エジプト誌」の実物を拝見に。ロゼッタストーンの碑面を実物大で写し取った、巨大すぎるエレファント・フォリオを実見できたのは良かったけど、その1ページしか見せてくれへんなんてけちくさ、とは思ってしまいました。

2017.06.04

 今日はこの後出かけるので、出る前に胸にたまったSherlockに対するもやもやを毒吐きしていく。検討の対象は主としてS3ですが、S4のネタバレ回避組は、すみませんが今日のブログは読まないでおいてください。



 優れたチームであることに疑いなかったドラマ制作陣は、残念ながら一番やってはいけないことに突っ込んでしまった感がある。出たとこ勝負とご都合主義である。
 そもそもこのドラマの売りは「奇矯をてらっているようだけど、ネタはほぼ原作にあるんだよ」というところだった。「ノベライズを出す気はない。原典を読めばいい」とも豪語していた。ホームズは原典でホームレスを手足に使い、新聞というメディアを活用するし、コカインを使用するし、捜査のためにメイドをたらすし、レディに礼儀正しいが本音は女性に心を許さないし、ワトソンをこき使いながら彼を必要としている。現代のシャーロックの設定と性格の基本はどこまでも原典に忠実なのだ、と。
 いろいろ問題点の指摘が多いS3E3だが、ジョンとメアリの結婚にシャーロックがベストマンを務めるという、前エピの思い切った展開(自分的にはぎりぎりアリだと思う)の後、「唇がねじれた男」の、ワトソンの阿片窟突入→潜入捜査中のホームズと出くわす、に、「瀕死の探偵」の、犯人を油断させるためにヤク中で廃人か? を繋ぎ、それがさらに「恐喝王ミルヴァートン」のプロットへと繋がっていく、しかもメイド騙しを秘書ジャニーン騙しに転換させて、前エピと繋ぐ、という展開は、正直いって、原典の活用法として見事だと思う。
 ただ、先行していた侵入者、女性、に、ここも原典由来の展開かと一瞬思わせて、一番予想外のキャラ、メアリを持ち出し、さらにシャーロックが彼女に撃たれるという、これまた視聴者の予測の斜め上を行くストーリーには、それはもう息を呑んだ。死の底へ下降していくシャーロック、子供時代の記憶のかけら、そしてモリアーティ、そこからの生還は、シリーズ屈指の名場面といっていいし、メアリの正体が最初から決定されていたことは、伏線のばらまき方からしてまず間違いないところだろう。
 だが制作者は、メアリの退場の仕方については、この時点でどれくらい計画しておいたのだろう。原典では『四つの署名』で登場し、作外でワトソンと結婚し、ホームズの失踪中に病没したと推測されているメアリを、シャーロックの失踪中にその不在を補うように登場させて、シャーロックの成長ぶりを証明する結婚シーンを見せた現代版。彼女のただならぬ過去は、彼女が長くこの物語にとどまらないための布石にも思えるが、すべてが計画されていたものだとしたら、S4の展開が納得できないのだ。
 E1におけるメアリの死、それもシャーロックを撃ったことへの謝罪のしるしとしての自己犠牲死。これがどうにも納得しづらい、興ざめなお芝居になっていることは置くとしても(そもそもシャーロックがなぜあの女を執拗に挑発して自分を撃たせようとしたのか、その説明がない。だから彼に向けて銃弾が発射される必然性がなく、メアリが彼を庇うという展開が必要だったからそうしたようにしか見えない。これをご都合主義という)、E2ではジョンに去られたシャーロックの醜態が延々と続く。
 原典でも、ハドソンさんやワトソンまで騙すホームズの真に迫った仮病ぶりが描かれて、それがカルバートン・スミスとの暗闘を制するための仮病だったというのが原典「瀕死の探偵」の主筋だが、あれは大げさすぎる分読者的にはマジに受けるより「ははん」と思ってニヤニヤする展開ではなかったろうか。しかし現代版ではすでにヤク中偽装で犯人を騙そうとする、というプロットはS3E3で使ってしまっている。だからもう一度それをやるには、もっとひどい状況にするしかないというわけで、ぼろぼろへろへろ、無精髭だらけのみじめで汚いシャーロックが登場した。だが、ここまで「瀕死の探偵」を全面的にやるなら、マグヌッセンとのエピソードに「ヤク中を装って油断させようとするが空振り」なんてのを入れる必要があったのか? 作品数が少ないのは、マンネリを避け精選したプロットを見せてくれるためじゃなかったのか。
 シャーロックにはどうやら、モリアーティ同様の自殺願望が潜在している。S1E1のクライマックスには、それがあると思える。ジョンの存在がそこから彼を引き戻した。ジョンがいたからこそ彼はS2E3のラストで、自殺を選ばなかった。ところがS4E2のジョンとの和解後、彼は「メアリがぼくの命に意味を与えてくれたが、ぼくはそれをどう使えばいいかわからない」というようなことばをジョンに漏らしている。自殺願望は彼の中に常駐していて、メアリの死とジョンの怒りが彼を絶望的な捨て身の行為に走らせた、としか思われない。こうなるとメアリの、「ジョンを救うために、ジョンにあなたを救わせて」という遺言も、好意的には受け取れなくなってくる。
 探偵ものでも、主人公がトラウマ持ちの自殺願望男で、なんていうのはもちろんアリだと思う。ハードボイルドの探偵はたいてい暗い過去を背負い、その傷の記憶にあえぎながら戦う。でも、このドラマはそういうドラマだったのか? シャーロックは若くて青いキャラで、成長によってそこから変化していく。トラウマを抱えているのはジョンの方だ。ところが物語が進むほどに、シャーロックの不気味な過去が現れてきてしまう。メアリはずいぶんと無神経に、その傷をえぐって、シャーロックを文字通り地獄へまっさかさまにさせかねなかった。
 でもたぶん、制作者の意図はそうではないのだろう。メアリは自分の命でシャーロックへの負債を償い、ふたりの未来を祝福して消えたのであり、だからこそ彼女の死を乗り越えてふたりはこれからも生きていく、ああ感動、とまあ、そんなふうに思って欲しいのではあるまいか。だけどね、そういう意図が剥き出しになったドラマを、ご都合主義と私は呼ぶ。

2017.06.03

 朝からぺっかぺか。紫外線が強いそうだ。

 明日は西荻に知り合いのお友達のコンサートを聴きに行くので、また日記がお休みかも。

 K教授から、アリスに出演したドードー鳥は進化論騒ぎとの関連が考えられるということと、キャロル(ドジソン)は自分を自虐的にドードー鳥にたとえていた、という話を聞いた。吃音のくせがあって、ドジソンがドードーになるのだと。イギリス人の自意識の屈折具合つーことかしら。

 キングの『悪霊の島』に続けて、ピーター・ストラウブの『ゴースト・ストーリー』を読了。これはあんまり感心しなかった。プロローグの、正体不明の不安と絶望感はすごく印象的なのだが、田舎の小都市での怪しい魔性の女と老人たちの過去と、人狼や幽霊が入り乱れる怪異譚は、だいたい既知の範囲に収まってしまう。ただ、その話が回収されてふたたびプロローグからエピローグへ繋がるところは「あっ」と思わされる。ところがその後のオールラストはなんだか「へ、これでおしまい?」的なあっけなさで、なんだかなー。

 立て続けにマキャモンの『少年時代』を読み出す。キングもそうだけど、アメリカン・ホラーというのは、子供が出てくると俄然面白い。子供時代というのが、魅惑の源泉であり、同時に恐怖の湧き出るところでもあるみたいだ。っていうか、子供時代は世界が闇と光に彩られている。すべてが恐ろしく、だからこそ引きつけられる。大人になれば恐怖が薄れる代わりに、魅力も色褪せてしまう。大人の目には闇はただ明かりの不足であり、ガラス玉はどう愛しても宝石にはならない。
 だから、その恐怖と美を召喚するために、物語は繰り返し子供時代に戻っていく。しかし、たとえば現代の日本人に、立ち返るべきふるさとはない、よな? いや、自分は東京生まれの東京育ちなので、変わってしまったふるさとさえない。まあ、本郷界隈に昔の記憶はないとはいわないけど、あまりに大きく変化してしまっているからね。

2017.06.02

 大英自然史博物館展はなかなか面白かった。ロンドンの最終日、本当はキュー・ガーデンに行く気だったのだが、雨がひどくて断念し、しかたないからといった博物館だったが、まず壮大なヴィクトリアン・ゴシックの大建築に度肝を抜かれ、雨の日曜日の家族連れ、ここなら子供をただで遊ばせられるぞ、な人々に混じってぞろぞろ列を作り入場したところが、入った天井の高い大空間と、そこに陳列された恐竜の化石に「おーっ」となり、一日楽しい時間を過ごしたのだったが、そこからえり抜きのお宝がやってきてます。
 最初は中世的ヴンダーカマー、珍品陳列室的なコレクションから始まり、ついで博物学の時代、大英帝国の学者が世界に出ていき、新種の発見、命名、分類によって知的に世界を構築=支配していく過程がよくわかる。しかし、やはり面白かったのはCGによる絶滅種の生態再現映像かな。モアにサーベルタイガーに始祖鳥にオオナマケモノに魚竜にドードー。しかもそれは深夜の博物館で、化石がよみがえるという演出で描かれているので、まさにリアル「ナイト・ミュージアム」といいますか、あの建物ならそういうのもありじゃない? という気になってしまう。
 絶滅したドードーはこれまで考えられていたほど丸くはなかった、というのが最新の研究らしいけど、CGはわりと丸くてむっちゃ可愛かった。「アリス」のイラストのまんま。あのお話にドードーが出てきたのは、この当時の博物ブームの反映なのでありましょうか、K教授?

 せっかく来たんだからと、「宇宙館」の平常展示を頭からざーっと見ただけでたくたくになり、「日本館」はギブアップ。先日見た都美術館に立ち寄って、ロビーの大友克洋画伯によるバベル・コラボを撮影。谷中に歩いて、古いアパートを改造したHAGISOでベルギービールや赤ワインを飲む。一番外側の窓の大きな席に座ったので、塀に開いた戸口の前を人が通りながらこちらを覗くところを眺める。ちょうど額縁みたいになっているのが、なんとも面白いのだ。車はめったに通らないが、人通りは多いので、なんか人間くさい町という雰囲気がとてもいい。
 これまではカフェの利用しかしてこなかったのだが、酒のつまみとして用意されているものも、いずれも美味しくて気が利いているのに感心。

2017.06.01

 上野の科博へ大英自然史博物館展を見に行くのは、午後からという予定になったので、やっぱりブログは簡単にだけど書きます。秩父オペラの「ミカド」、1日だけの公演で、なんかもうあんまりチケットがなかったみたい。それでも2階席のはじの方をツレが確保してくれました。8/20だからまだずいぶん先です。

 キングの『悪霊の島』を読了。いや、これは面白かった。それでいろいろ考えたことがあるのだが、これはもう少し後になってから落ち着いて書くことにする。ただ、キングの小説は基本、映画にはしない方がいいんだろうな、と思った。この話、分厚い単行本で2冊なんだけど、事態が急展開していくのはようやく下巻の頭からで、それまでは事故で片腕とそれまでの人生を失った男が、奇跡のように芸術的霊感を得て絵を描く話が延々と続く。この延々部分がちゃんと面白いのだが、映画でこういうところは描きづらいと思う。そしてクライマックスは、いまのSFXなら楽勝で映像化できるだろうが、そうすると、ただのよくありがちなナントカになっちゃいそうなんだよね。
 自分的にも、そこはちゃんとハラハラわあわあできるけど、本当の名場面はそのクライマックスが決着した後のシーンで、これがとても怖くて悲しい。でもそれは、前半の延々とした描写があってこそでもある。あの長さにはちゃんと意味がある。そして、さらにもの悲しいエピローグ。失われたものは決して戻らない。恐怖の日々はしかしそれでも、彼の人生のひとつの祝祭であって、この先彼は独りどうやって生きていくのだろうと、切々たるものを覚えてしまう。
 ひとつだけ苦情。訳タイトルの『悪霊の島』はボツだと思う。全然イメージと合わない。原題は舞台となる架空の島の名そのまま『Duma Key』 これじゃなんだかわからないでしょ、といわれれば、そうなんだけどね。

2017.05.31

 今日は昨日より少しだけ気温が低い。買い物ついでにうろうろしてきたが、5000歩がやっとだ。原稿が気になるのでハイキングに行く気持ちの余裕がない。

 この前シェイクスピアのフォリオを公開していた明星大学で、また貴重書の公開があって、ナポレオンのエジプト誌が見られるというので、行ってくることにした。申し込んで予約しないとならないの。このエジプト誌というのは「それは魔法の舟」に登場した実在の本で、ナポレオンがエジプト遠征のときに考古学者や博物学者をぞろぞろ引き連れていった。遠征自体は軍事的にも政治的にも失敗だったけど、ロゼッタ・ストーンの発見とか、学術的な成果はあって、それを豪華本の全集で出す企画が進行したけど、ようやく完成した時にはナポレオンの天下はとうに終わっていたという。
 篠田の話の中に出てくる、薩摩二郎八旧蔵のエジプト誌、というのは架空の存在なんだけど、この大金持ちの坊ちゃんは奥さんの最新流行のモーブと銀のドレスを着せ、同じカラーの車に乗せてシャンゼリゼを走らせて、パリジャンに、バロン・サツマの名を売った遊蕩児だから、もしも彼がエジプト誌を手に入れたら、きっとモーブと銀で装丁したに違いないと、自分の想像にほくそ笑んだものでありましたよ。自己満足の極みだね。
 小説を書くにはいろんなことを調べて、そっちに深入りして、書き終えればそれまでなんだけど、エジプト誌の本物が見られるなら見たいね、と、なんとなく後を引いてしまうもの。後を引くといえば、この八月に秩父のホールでサリヴァンの「ミカド」をやるんだそうだ。ブルーレイで見て、お話はどーもならんが音楽は確かにいいね、と思ったものだった。明朗快活健全という雰囲気なの。なぜか日本ではろくに知られぬ幻の作品だけど、オリエンタリズムがどうこういうなら、「マダム・バイフライ」の方がよっぽど気に触る。こっちは日本を風刺しているともいえない、ただのネバネバランドの代わりだし、イギリスでは歌って踊るサムライ集団が黒のスーツにアタッシェケースのビジネスマンになったりするけど、まあ日本ではそういうのはさすがになしでしょう。
 えーと。ご存じない方がいるといけないので、改めて広告しておきます。『レディ・ヴィクトリア ロンドン日本人村事件』 講談社タイガ(文庫書き下ろし)に、この「ミカド」が出てくるのであります。それと、日本人留学生が出るので、それの参考に夏目漱石のロンドン時代をいろいろ調べたりして、結果的に漱石もいまごろになってあちこち読んだり。
 書き終えた小説の調べ物が、趣味的に残存するものの、これもひとつですわね。そういやあ最近は漱石も軽くブームだそうで、横浜の近代文学館に行ったら漱石グッズがいろいろあるし、晩年の住まい跡である早稲田の漱石公園(篠田が在学中にはそんなものもなかったと思う)に、この秋記念館が開館するらしい。結構な話です。

2017.05.30

 今日も朝から晴天。そろそろ布団が暑くて目覚める。五月が終わるな〜

 ワイルドの戯曲「真面目が肝心」の話題。ブレーンのK教授から「ワイルドは100年前の三谷幸喜です」というコメントをいただいた。なるほどね。才人として知られて、売れっ子で、とんがってるんだ。しかし彼女が向こうでこの劇を見た時は、周りがどっと笑って5分くらいしてからやっと洒落の意味がわかる、なんてこともあったそうで。彼女がそれなら篠田如きが、翻訳の戯曲読んでもぴんとこなくて不思議じゃないね。そして、100年前のギャグに笑えるというのは、ワイルドがすごいのか、イギリスが日本ほど変わらないのか、英語の問題なのか。
 Sherlockの中に引用されていたせりふが、新潮文庫で見つからなかったのは、文庫はずいぶんと意訳されていたからだということが判明。篠田が参照させてもらっているブログでは直訳だった。「真実はそれほど純粋ではなく、単純なものでもない」ドラマの中では「真実を話せ」と迫るシャーロックとジョンに対し、防戦するマイキー兄ちゃんが「そう簡単に話せることでも無いんだよ」という意味で使ってる気がする。もっとも二度目の使用では、その意味がずらされている感じか。
 そしてこれは主人公、アルジャノン・モンクリーフのセリフだったので、それではマーティン(というか、21世紀版のジョン・ワトソン)は、学生時代アルジャノンを演じたのか、と、ごめんねまーてん、少し意外でした。ハンサムで軽薄なプレイボーイ役なんで。なんとなく、シャーロックのキャストでこの芝居をやるとしたら、アルジャノン=ベン、ジャック=アンスコ、下男=まーてんかな、なんて思っちゃって。ジャックが後見人をしていた田舎の女の子で、アルジーと婚約するセシリーが、モリーの女優さん。セシリーの家庭教師で、昔赤ん坊を手荷物預かり所に置き去りにした粗忽な乳母、プリズムがハドソンさん。俗物の貴族おばさんがゲイティスさん、するとその娘でジャックと結ばれるグウェンドリンはアイリーンの女優さんで、残った間抜けな聖職者はレストレードか。

 午前中原稿書いて、キング読みながらお昼の後で、30分弱散歩して戻った。ほんとはもっと歩こうかと思ったが、如何せん陽が強すぎて断念。これだと4000歩も歩いてない。これからまた原稿。

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