篠田真由美お仕事日誌

Sherlock回顧18

 いつも行く方のブログで、このほどS2E1,ベルグレーヴィアの醜聞のスクリプト訳が完結。シリーズ中でも質的に面白いもの、ベスト3には確実に入る作品だと思うが、反面問題も多い気がして、これまで書いたことと重複するとは思うが、また書いてしまう。とはいえ全体に話を及ぼすのは大変なので、ラストのスピーディ・カフェでマイキー兄貴とジョンが語り合うシーンから後ね。

 アイリーンはアメリカで証人保護プログラムに入ったから、今後は新しい名前で生きていくことになり、シャーロックとは二度と会えないというマイキーに、ジョンはいやに強い口調で、「彼がそんなことを気にすると思うのか? 最後には彼女に失望していたし、名前さえ呼ばない。あの女としか」と反論する。しかし重ねて問われると、次第に語調が変わって、「自分はそう思わない」 結局ジョンも同じ懸念を持っていることがわかる。しかし、自分たちにはシャーロックの胸の内は測りがたい。ここでマイキーの「彼は海賊になりたがっていた」というセリフが出る。少し唐突に感じる分、印象に残った。自分は、アイリーン救出劇は幻想説だったのだが、初見でそう思った理由のひとつは、このせりふにあったのだと思う。囚われの美女を覆面の勇者が救出するのは、完全に海賊物語のラインだから。

 だいたいこのドラマでは、ロンドンでのシーンが現代的でリアルなのと比べて、そこから離れると急にファンタスティックなトーンになってしまう。予算がないからそうなるのだ、というのはこの際考えないことにしよう。S1E3のベラルーシ(だっけ?)の死刑囚との対話も、ひどく残酷な上にリアリティが欠けていて、寓話のようにしか見えなかった。ドラマ的な必然性にもちょっと首をひねったけど、アイリーン救出の場合は、ロンドンではまかりなりにも現実的な動きをするシャーロックが、突然ルパン三世かジェームス・ボンドのようなマンガ的ヒーローに化してしまったようで、「イスラム・ゲリラの本拠地くらい、シャーロックならひとひねりだよ。これリアルだよ」と制作者が主張するなら、イギリス人の外国人蔑視の反映じゃないのか、と深読みさえしたくなってしまう。これについて補足説明すると、つまり昔の西部劇で奇声を上げながら襲ってきてはあっけなく撃ち殺されるインディアンの描写、あれは昔のいわばお約束だけど、いまの目で見るとアメリカ原住民に対する差別意識の反映と言われても無理はない。そういうことです。

 友人のシャーロック・ファンが、ラストでアイリーンの携帯を見ながら笑っているシャロに「彼女が死んだのに平気で笑っているなんてひどすぎるから、それは違う。救出劇は実際にあったことだ」といわれたのだが、敢えていうなら、シャーロックはアイリーンがカラチで殺されたことは知らないまま、彼女からの別れのメールだけを見て、自分の海賊的冒険を想像して笑った、とも考えられる。でもアイリーンは生きていたんだから、いまさらなにを考えても無駄だね、とも思ったけど、だったら「シャーロックの空想した救出劇」とは別の状況で、アイリーン自身が自分の力で死地を脱したというのも、考えられなくはないよね。だって、アイリーンは「生きてるわよ」とメールは送ってきているにしても「あのときはどうこう」みたいなセリフは、少なくとも公式には出てないもんね。

 まあ、マイキーが「アイリーンが死んだことは確かだ。シャーロックなら自分を担げるだろうが」といっている以上、アイリーンの救出にシャーロックが関わっている、というのが公式見解なんだとは思うが、強引に妄想すればそう考えられなくもない。でもまあどちらにしろ、S5が作られるとして、そこにアイリーンがうろうろしてきたら嫌だなあ。どうかそんなことにはなりませんように。

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