篠田真由美お仕事日誌

Sherlock/S4E2 感想

 1と比べればずっと面白く見られた。その点は予想外なくらい。全訳をしてくれていたブログの方おふたりが、どちらもシャーロックのファンだったので、シャロの無精髭について激しく嘆いておられ、自分も同感だったんだけど、ドラマの中ではするするっと見逃していけた程度でした。
 ベネさんの顔に髭が似合わないわけではなくて、シャロのクルクルヘアと無精髭が不釣り合いなんですね。私見ではシャロの髪型は彼の幼児性と結びついていて、髭とは矛盾する。髭、それも無精髭は成人男性の生理のしるしなので、幼形成体的シャロは髭はないもの。その証拠にS3の頭で復帰する時も、髭剃りシーンはあったけど髭面は登場しなかった。髭を落としてスーツにコートで、初めてシャロになる。
 ところがE2で彼はほぼずっと髭のまま。これがまたジャンキーというよりホームレスのごとく、見るからにばばっちい髭面です。彼の罪、犯人にいらんこといいをして挑発して発砲させ、そのせいでメアリを死なせたシャロは、自己処罰的にスタイリッシュな幼形成体を止めて、これでもかと醜態を晒す。成人男性の無様さを体現する。それが成長のしるしである、とまあ、制作者の意図を深読みすればそんなふう? あまり、見ていて楽しい絵面ではなかったですが。
 
 このドラマはいずれも悪役のゲストが見事で、今回のトビー・ジョーンズも相当にいけてます。グロいです。しかしやはり文句をつけるなら、ヤク中の振りして悪役を油断させる手は、原作「瀕死の探偵」からの援用ではあるんだけど、どうしてもS3E3の対マグヌッセン作戦を思い出させてしまう、というのが悲しい。病室で悪役に襲われるシーンも、削除シーンだけどやはりS3E3でやっている。
 おまけにあの削除シーンと比べると、このときのシャロはかなりかっこ悪い。着せられてる病服も、幼稚園児の着るスモックみたいだし、「死ぬのが怖い」といわされるあたりも無残。それはもちろん作為的な選択だとは思うけど、趣向のダブりだというのは、的外れな指摘ではないと思うのでした。かっこ悪いといえば、無精髭にディアストーカーというのも、かなりなものでしたが。一度作り上げたスタイリッシュなシャロ像を、これでもかとたたき壊すことを目標にしていたみたいな絵でした。

 これまた批判の多かった「死んだメアリがしつこく出てきてうざったい」も、自分的にはわりとスルーしてしまった。うざいことはうざいんだけど、それほど引っかからなかったです。ただそれよりも、落ち込み中のジョンがうざかった。うざいだけでなく、病院でシャロを殴ったり蹴ったりするシーンが、完全に病的でキレちっゃたやばい人みたいに見えて、嫌な感じがした。
 そう、自分的にはS4の問題点はシャロの髭でも幽霊メアリでもなく、性格が変になったジョンでした。浮気についてはリアルだ、でもあんまり楽しくないと思ったけど、あの病院での暴力沙汰はひどい。自分が妻を裏切りかけた後ろめたさを、暴行に代えてしまったというのも、人間の心理としてあり得るとは思うけど、薬で身体がぼろぼろになっている男に、医者がなにするんだ、暴れるのを止めればいいだけだろと。それが全部スミス逮捕のための布石だとわかったら、その時点でせめて「やりすぎて悪かった」と謝罪のひとことくらいせんかい。
 メアリがシャロを撃ったこと、シャロがメアリのためにマグを撃ったこと。その時点ではメアリも生きていたし、メアリは赦すと決めてしまったのだし、そこでメアリが謝ったり、夫婦が礼を言ったりというのも、少し変というか難しいというか、てはいえると思う。男同士、いちいちいわなくてもわかってるよな、的なことだったんだと、解釈してもいい。でもさ、ここでは完全にジョンがやりすぎてるんだから、たとえシャロが「もういいよ、ぼくが君に、ああするように仕向けたようなもんだし、そのせいでスミスも油断したんだし、気にすんな」といったとしても、ジョンは反省するべきでしょ。スミスが逮捕されたところで憑き物が落ちて、シャロが薬に捕まりかけていたように、自分は憎しみに酔っていたんだな、と、愕然として「ぼくはおかしくなっていたんだ」とつぶやくとかね。それができないとしたら、やっぱり性格変になってるよ。

 まあ、ジョンの性格がぶれがちだというのは、このドラマの頭から通してみると、やっぱり感じられるところ。主人公ほど定義がしっかりしていないから、シナリオ・ライターによってそういうことになってしまう気がする。それをまーてんが演技力で補完しているわけだけど、個々のシーンで健闘して説得力があるほどに、引きで見ると「え」といいたくなるということ、あるじゃないっすか。
 育児疲れした父親が若い女の子にふらっとする、というのは「ああ、リアル」だけど、ジョン・ワトソンとしたらそれってどうなの、とか、複雑な感情、愛だけでなく後ろめたさや葛藤も含めて、妻の死に立ち会わされた男がケモノのように慟哭する、というのは「すごい」けど、それであのあまりにもお約束な安手のドラマチックを、説得力のあるものにできたかというと、やっぱり無理でしょ、とかね。
 それで、やっぱり病院のシャロ、ぼこぼこシーンへの違和感は拭えないわ。そういうことをまるっとなかったことにして、アイリーンにメールを返せ、愛する相手が生きているってことはすばらしいんだぞ、なんていっても、感動のセリフが上滑りです。

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