篠田真由美お仕事日誌

2019.01.21

 昨日の夕方で一応ラストに到達し、あとがき2ページも書いた。ただこれまでは正味400を越したことはなかったので、担当に報告メールかたがた、ページ数について打診。まあ大丈夫であろう、との内諾をもらい、今日から読み直しにかかっている。ただ分量がかなりあるので、いっそ第1回の見直しは画面上で済ませることにして、今朝から開始。変なダブりと不足、両方を考慮しつつ、気になって問題のあるところはメモしていく。今週は木曜日に出かける予定なので、一応水曜夜には送稿するつもりでいる。

 

 昨日は友人からもらったワインを開けたところ、これが栃木のCOCO FARM WINERYというところの微発泡赤で、「よく冷やして瓶をボウルに置き静かに開けてください」と書いてある。なのでボールを置いて開けたところ、突然しゃわしゃわと中身が泡立ちながら溢れ出し、全然止まらないままみるみるボールが一杯になる。飛び散ったわけじゃないけど、その溢れ方はまるで噴水。シャンパンでもカヴァでも、こんなふうに溢れるのはみたことがない。あわててボトルを持ち上げたらようやく止まったが、瓶中に残ったのは三分の一以下。もちろん溢れた分もちゃんと飲んだ。ヤマブドウの入った、とても美味しいワインだった。

 こりゃあ、お祝い事の席なんかでやってみせたら、イベント感たっぷりでサプライズもあって楽しいね。しかし、警告を軽く考えて小さなボールしか置いてなかったら、テーブルの上が修羅場になった上、飲み物が消滅する悲劇にもなりかねないというわけで、やあ驚いた。そして、「あ、そうか。原稿終わったお祝いということか」と遅まきながら思う。意図したわけではないので、誰かから「オメデトウ」といってもらったみたいな気持ちになった。

2019.01.20

 昨日は仕事場に泊まったので、夜中の12時までパソコンに向かっていた。あとちょっと。読み返したら直したくなりそうだけど、いちおうはあとちょっと。

 

 『モリアーティ秘録』を読み終えたので、その前に読んだアンソニー・ホロヴィッツの『モリアーティ』を再読。ほんとはホロヴィッツの『カササギ殺人事件』を読みたかったんだけど、飯能の図書館には入ってないし、他の図書館でも貸し出し予約待ちなんで、まあそのうちと思う。ホロヴィッツのモリアーティはかなり鬼畜。そして小説自体叙述トリックがあって、ネタバレになるのであんまり書けないけど、悪が栄えるラストなんで好き嫌いはありそう。

 秘録のキム・ニューマンはオタクでマニアな小説だけど、ホロヴィッツは小説としては上手いけどあざとい、という印象。前作のホームズ・パスティーシュ『絹の家』も同様、上手いけどあざとさがちょっと鼻につき、読後感はあんまり良くない。早い話が後味が悪い。そのへんはいかにもいまの小説という感じがする。

2019.01.19

 ジムの後はなんか仕事脳にならないんだけど、そんなことはいってられないので、今日は仕事場で残業。終わりは見えてきたけど、まだたどりついてはいない。やはり今月末ぎりぎりになるか。

 

 マイミクさんふたりがインフルで寝込んでて、ほんとに流行ってるんだなー、という感じ。熱は薬で下がっても、咳が止まらなかったり、倦怠感や筋肉痛が後を引いたり、なかなか大変な感じ。自分はヒッキーだからなと思ってたけど、考えてみたらジムには行ってるじゃん。楽観は禁物ですな。外出の後は必ずうがい手洗い励行。

2019.01.18

 外は意外と暖かい。図書館からホームセンターとぐるっと回って、6000歩足らず。安定の悪いミルクパンをお払い箱にして(園芸用のひしゃくに転用して)、16センチの雪平鍋を買った。

 

 『黎明の書』は午前中に死ぬことになっていたキャラを無事死なせて、ちょっと虚脱。この後、ちゃんと全体の決着もきれいにつけないとならないので、虚脱してるわけにはいかないんだが。

 

 読了本『モリアーティ秘録』 上下 キム・ニューマン 最初はかなりパロディ趣向が強いが、だんだんホームズの世界から離れて、他の小説や映画、リアルから持ってきたキャラがぞろぞろやたらめったら出てくる、という『ドラキュラ紀元』的スタイルが強くなってくる。ご当人はこだわりがあるんだろうが、知らない名前ばかりなので少々うざくなってくるというのも、『ドラキュラ紀元』と一緒。最後はオープンエンディングというか、モランが撃ったのがどちらかわからない書き方で終わる。この物語ではモリアーティ教授は生き延びてはいないらしいが、生還したホームズは別人だって説もあることだし。

 悪漢が主人公のエンタメというのは昔からあるし、語り手でもある場合もある。ルパンも泥棒だし。ただその場合、引退した泥棒だったり、義賊だったり、というエキスキューズがつく場合が多い。やはり純然たる悪者が主人公で、善人を踏みにじってひどい目に遭わせたあげく、罰も受けずに生き延びてめでたしとはならない。読者は基本自分は善人だと思っている人だろうし。

 この小説の語り手モラン大佐は、銃器の名手で殺人常習者、おまけにいかさまトランプの名人というわけで、相当に悪漢度が高い。ルパンはしばしば犯罪者である自分を恥じたり嘆いたり、という面も見せるが、モランは全然そんなことはない。読者のための救済策としては、モランが「あれをしたこれをした」と自分のやった殺しや暴行を話題にしても、その直接描写はあまりなく、彼の肉体的活躍や冒険行は、普通のヒーローのそれとそんなに変わらないというあたりだろう。

 まあ、つまらなくはない。作者の献辞にマーク・ゲイティスの名が上がっていた。コンサルティング犯罪者、というアイディアは、ゲイティスから借りたというより一致したということらしいが。

 

2019.01.17

 今日は昼間ちょっと暖かい。近所に去年出来た、週に三日だけあくパン屋さんで、昼のパンを買う。美味しいけど高い店。でもなんだか、けっこうお客さんが来ているようで、せっかくできたんだから頑張って欲しいと思う。特にドイツパン系のパンはこの近所では手に入らないので、それにはそこそこ値頃感があるけど、食パンはさすがに1斤400円超えといわれるとたじろぐ。今日買ったのはライ麦パンに蒸した鶏胸肉らしいものをサンドして、上にレンコンを並べてチーズをかけたもので、けっこう食べ応えがあってグッドではあったが、380円っていうとやはり、ううん。というわけで家用の朝パンはホームベーカリーで焼く。

 

 黎明、死亡フラッグの立っている3名を、今一生懸命死んでいただいているところ。やはりこれまでで一番長く400ページ超しますね。ダメって言われても越すから、担当Kくんよろしくたのむ。

2019.01.16

 原稿はいよいよラストに近づいてきたけど、そうするとメインキャラを何人か殺さないとならなくて、これがなかなか精神衛生によろしくない。よろしくないからって書かないわけにはいかないんだけど、筆が進まなくなるわけです。しんどいというか。

 

 角川ホラーのヴェネツィアもの第二弾、紙の本は出ないよ、は1/25の配信だそうです。電子のみというのは初めてで、そう言われる前に書き出していたので、パーになるのは嫌だと思って書き上げたけど、このまま続けられるかというとそれはちょっと無理だなあと思っています。身も蓋もないことをいってしまえば、対価の問題で、紙の本は1万部なり刷ればその部数分の印税が支払われるわけ。だけど電書は売れ高払い。1冊売れれば1冊分のお金がもらえる。それしかもらえない。何ヶ月かかけて書いた本の対価が、ちゃりんちゃりんとコインで皿に放り込まれるといいましょうか。なかなかに厳しい状況となるわけです。

 それでも仕事があるだけいいじゃん、といえなくもないんだけどね。モチベーションを保つのは難しいです、マジで。それにどうしても自分、電書が好きになれないの。マンガをパソコンで見たときは、ああ、けっこう抵抗がないと思ったけど、活字の本はいまいち好きになれない。さらにiPadとかで読む気はしない。文庫本でいい。

 というわけで、時代について行けないロートルは、死なず消えゆくのみ、なのね〜

2019.01.15

 散歩に出るもお天気いまいち。原稿のたのた。明日はどこにも行かずに、万歩計の数字1000歩以下でもパソコンにしがみつかなきゃダメだ、自分。

 

 といいつつ、数独は見えないように本棚の影に片付けたけど、『モリアーティ秘録』はついつい読んでしまう。だって面白いんだもの。それで、どうもモファティスはこの小説をチェックしていたんじゃないか、という疑惑が強くなるばかり。「ベルグレーヴィア」のだぶりくらいなら偶然の一致とも考えられるし、発表年とドラマの制作年がかなり接近しているんで、そこも微妙なんだけど、「忌まわしき花嫁」なら十分間に合うんだよね。

 少しネタバレになるけど、そこはお許し願うとして、キム・ニューマンの「ダーヴァビル家の犬」はバスカヴィルのパロで、ワトソンならぬモランがホームズならぬモリアーティの指令で依頼人のところへ行くと、後から変装したモリアーティが意外な登場の仕方をする。だけどその変装が、首折れレディという幽霊で、ヴェールをめくるとモリアーティ。こっちのモリアーティはストランドマガジンのイラストそのままのじいさんなので、女装はひええっだけど、「忌嫁」のクライマックスでアンドリュー・スコットのモリアーティが、あんまり必然性なくヴェールをめくり上げて現れるシーンを、思い出さないわけにはいかない。

 まあ別にだから悪いというわけではないけど、BBCのおふたりはそういう元ネタについては、ベイジル・ラズボーンやジェレミー・ブレッド、ワイルダーの映画くらいしか明かしてないんで、へーみたいには思ったです。

2019.01.14

 昨日はツレの誕生日で、ちゃんとプレゼントも用意してあったのに、帰るまで全然思い出さないというお馬鹿加減で、サプライズもなにもあったもんでなく、今朝ばたばたと手渡す。これもみんな進まぬ原稿が悪いのだ。

 

 そんなことをいいながら『モリアーティ秘録』を読み進めてしまう。いわゆる犯罪者を主人公にエンタメを書く場合の難しさなどについて、つれづれに考えるが、それは読み終えてからにする。連作短編の2は「ベルグレーヴィアの騒乱」で「ボヘミアの醜聞」のパロ。ただしBBCのあれよりキム・ニューマンの方が早い、ということは、逆にモファティスがタイトルをパクった可能性もあるわけか。こちらはモリアーティが彼女を「あのあばずれ」と呼ぶ、つまり悪女に一杯食わされた顛末だが、その一杯加減がさほどすっきりしていないので、アイリーン話としては北原尚彦さんの「女豹と毒蛇」(『ホームズ連盟の事件簿』祥伝社文庫)の方がよほどいい。次は「赤い惑星連盟」。タイトルは「赤毛連盟」のパロだが、内容的には屈辱を味わわされた天文学者にモリアーティが商売抜きで凝りに凝った復讐を仕掛ける話で、やり過ぎ感がほとんどギャグ。

 

 切り抜いておいた書評の本を検索してみたら、hontoで出てこなくてもう品切れかと呆れる。ところがAmazonでは出てきたよと思ったら、1文字入力ミスをしていた。立原道造の夢見た建築→ただしくは 夢みた でした。こういうとき「ありません」としかいわないのでは、客を逃しますぜ、と自分のミスを棚に上げて思うのだった。

2019.01.13

 曇りから晴れになったけど、午前中差し込む陽射しが無かったので、ずっと寒い仕事場。ちょっとだけエアコンをつけたが、うるさいし、暖かくなりすぎると眠くなりそうなので消してしまう。しかしオイルヒーターはさすがに効かない。

 

 今まで書いたところを書き直すので、今日は一日終わってしまいそうだ。24日に松濤美術館に行く予定を入れてしまったので、それまでにはなんとか目処をつけたいんだけど、全然楽観は許さない。

 

 キム・ニューマン『モリアーティ秘録』をこらえきれずに読み出してしまう。さすが才人。そんじょそこからのモリアーティものとはひと味違うよ。モリアーティ主人公、視点人物モランだけど、連作短編スタイルになっていて、最初は「緋色の研究」のパロ。金欠でロンドンに戻ってきたモランを小悪党のスタンフォードがモリアーティに紹介すると、「おまえ、アフガニスタンに行ってきたな」と開口一番始まる。べらべらっとモランの経歴を並べてみせる教授に、モランはちっとも感心せずに「俺の知らないことを教えてくれ」と返す。アフガン帰りは日焼けからの推測だろうし、賭博癖は袖口のすれから当てて見せたのだろう、と。それに答える教授は「推測したり推理したり推論したりするのは愚か者だけだ」と答えて、事前に調べてあったからだという。ホームズとワトソンの名高き初対面シーンを、意地悪くひっくり返したのがお見事。しかし『憂国のモリアーティ』のおかげで、ついモランをあのキャラで想像しちゃうというのが、わははのは。

2019.01.12

 朝から曇って寒い一日。昨日と違って風はないけど、空は一面雲でどよーん。苦手だなあ、こういう天気。イギリスの冬はずっとこんななんだろうな。大陸だって秋から冬は天気が悪いのが普通。でも、ごめんよロンドン。パリならそんな天気でも、わりときれいに見えるんだよ。

 

 『ピクニック・アット・ハンギングロック』読了。んで、いろいろ例によって考えた。

 これのメインプロットは「神隠し」。10代の寄宿学校の女生徒三人と、女性教師もひとり、ピクニックに出た先で行方不明になる。これはシチュエーション的に、ヨーロッパの精神風土なら「妖精による不思議な事件」と受け取られただろう。しかし、その1,起きたのは近代というべき1900年、その2,起きた場所はオーストラリア。つまり女子生徒たちは紛れもなくヴィクトリア朝の価値観で縛られ、教育を受けているが、もはや人々は神にはすがらないし、妖精に恐怖することもない。また、周囲はイギリスではない。遙かに荒々しく生命力の強いオーストラリアの風土。ここにはたぶん妖精は棲んでいない。

 物語は基本「神の視点」で進み、最初の少女たちの失踪に至るまでの経緯は、豊かな自然背景とともに一種神秘的な出来事として描かれる。奇岩のそびえるハンギングロックには、それと明示されることはないが超自然的な力がみなぎっていて、奇妙な失踪も「あり得る不思議」として読まされてしまう。つまりこれが18世紀あたりのイギリスの出来事だったら、「妖精の誘拐」として人々は納得してしまったろう。だが19世紀も終わりのオーストラリアでは、誰もそんな納得をすることが出来ない。警察は空しい捜査を続け、お嬢様学校は好奇と非難の視線に晒されてゆっくりと崩壊に向かう。その過程は、開幕の失踪が神話的な美しさに満ちているのと対比的に、極めて現代的で現実的である。

 映画が失踪の謎を解かずに終わったように、原作にもその解決はない。しかし当初はラストにもう1章があって、少女たちが異界へ入り込んでいくシーンが描写されていた。しかしこれがあったとしても、「なぜ」「どうして」という問いに現実的な答えとなるわけではない以上、無い方が良かったのかなという気がする。ネットで見つけた映画に対する感想では、廃校に追い込まれていく学校の校長(権威主義的な未亡人)が最大の被害者では、というのがあったが、ここはやはり校長に睨まれた孤児の寄宿生セアラに同情する。後見人の連絡が遅れたのはただの行き違いで、すぐそばに生き別れの兄が居たのも互いに知らず、才能を買ってくれた絵画教師が託してくれた助けの手紙も下働きの怠慢で忘れられて、13歳で自殺したあげく、その死すら校長によって隠蔽されかけたのが哀れすぎる。やっぱりこのキャラは「小公女」のヒロインから発想されたんだろうか。

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